On the way

思いつくまま気の向くまま

天涯の船 / 玉岡かおる

読み終えて、ため息が出てしまうほどの重厚感を覚える作品というのは、なかなか出会うことができない。

 

途中から、これは史実?フィクション?とわからなくなりながら、最後の著者のあとがきをよんで、これは物語りなんだなぁと落ち着いた。

 

この本は、随分と前に母に薦められたらしい(覚えがない笑)けど、そのときは読まなかった。

少し前に国立西洋美術館で松方コレクション展があり、母がぜひにって言うから、一緒に行ったところ、コレクションはもちろん、その歴史的経緯に興味が出てきたところ、母からこの本の話を聞いて、借りたのだ。

 

激動の時代を生きる人々のはなし。

読み始めた瞬間から、あぁこれは面白いぞと思いつつ、なぜかページをめくる手が遅く、読み終わるのにかなりの時間がかかってしまった。

 

読み終えた後に思うのは、最初の方にきちんと丁寧に描いてあったにも関わらず、やはり青春という時期が早く過ぎていくように感じたこと。

老齢になってからの、物事への感性、感覚が繊細になっていく感触。

 

歯車が違っていたら、違っていたから、成り立つことの多いこと。

 

感想を述べるとき、あらすじも書いた方がいいのかなと逡巡しながら、結局書かないのは、面倒2割とネタバレを最小限にしたい8割(これから読む人の楽しみをとっておきたい)なのかなぁ。

ネットで検索すればあらすじは出てくるし(笑)

 

印象に残ったのは、ハーフ=あいのこである登場人物のアイデンティティが国籍を取得することで得られるという記述、そして感覚。どこの国籍も得ていないと、何者でもないという不安。グローバルな現代であっても、同じことを感じる人はいる。色んな国に行き、他国籍の人と結婚した俳優さんが、「自分が何者かわからなくなってった」と話してた、あのことを思い出した。

でも、あいのこというその言葉を聴いた瞬間、ああ「愛の子」なんだなと、すとんと落ちたこと。

 

もうひとつ。

最後に船上で、離れがたい2人の想いを汲み取るように、永遠に終わらないワルツの奏者たちの、なんとも粋なはからい。

星の降る夜の美しい場面で、終わりを告げる物語り。

儚げという言葉がなんとも似合う物語り。

 

どうかどこかで2人が一緒にいられますように。