小学4年生の世界平和 / ジョン・ハンター
これは教育と学びの本である。
ある小説で登場人物の男子高校生が、「あの本は面白い......」と呟くものだから、これはいつか必ず読もうと思っていたのだ。
本屋や古本屋で面白そうな本を手に取るのも良いけれど、本から本を、人から本を紹介されることになにか縁を感じる。
あるとき、あるアメリカ教師(=著者)がワールド・ピース・ゲームを思いついた。
それは、様々な課題や複雑に絡み合った問題を孕む仮想の世界で、どの国もスタートより資産を増やすことがゲームに勝利する条件として子どもたちの考え方や感じ方を成長させるゲームである。
最初、ある小説でこういった概要を読んだとき、実際に本書を読んだ時ほど、この仮想世界に蔓延った地球上の問題点が多く、かつ複雑なものだとは思いもしなかった。
なぜなら、タイトル通り、小学4年生が動かすゲームだからだ。
そして序盤ですでに、今まですべての子どもたちはゲームに勝利してきた、そう書いてあったからだ。
しかし、実際はゲームは複雑だった。
現実世界かと思うような現実的な問題(地球環境問題、宗教問題、資源問題、貧困問題...)が複雑に絡み合う状況を示した十数ページにわたるレポートを最初に手渡され、子どもたちは困惑する。
それぞれ国の首相や国防大臣、財務大臣、外務大臣、国連、武器商人や破壊工作員、そして気象の女神などに任命され、様々な役割を担うことになる。
権力欲にまみれて暴君となる首相もいれば、懸命な判断を促す国連職員、正しさを信条とする気象の女神、頭の切れる大臣や、結果的に地球環境問題解決に貢献した武器商人もいる。
色々な事例を取り上げているが、すべてに共通して言えるのは、失敗も、経験として得られるものがあるから、結果的には成功である、最終的には、その子がどう振舞っても、子どもの成長に寄与するものがある。
それから、戦争は、多くの場合、失敗であるということ。
個々人であるとともにに、世界というコミュニティーの一員であることを自覚すること。
最後にゲームに勝利する、その道筋の入り口に立ったとき(これはある一人の子どもが導く場合もあれば、全員で一斉に思いつく場合もある)、ひらめき(クリック)から流れ(フロー)が発生し、その流れは怒涛のように押し寄せ、全員で勝利を手にするという。
本書にはその前段階も含め、成長に関する様々な出来事を紹介している。
世界中の教育現場に、このワールド・ピース・ゲームが広まっていけば面白いのにと思う。
と同時に、かなりゲーム設定が複雑なので、取り仕切る教育者側にも相当の素質(もしくは勤勉さ)が求められるだろう。
読み始めたときは、自分が子どもの頃に参加したかったという思いと、引っ込み思案だった自分は、なんの役割も果たせなかったのではという思いが両立する。
読み終わったいまは、なんの役割も果たせないなんてことはなかったかな、くらいには思えるようになっている。
そもそもやっていないことを”こうだったのでは”と言っても仕方がない(わからない)ことだというのもあるし、本書に登場した子どもたちと同様、それまでの自分からなにか変わって一歩を踏み出せた可能性だってあったからだ。
子どもの成長は、きっと無限大だ。
それだけにとどまらず、私がもう一つ言いたいのは、信じたいことは、
大人だって、きっと無限に成長できる。
エンプティー・スペースに入ることさえできれば。