On the way

思いつくまま気の向くまま

古く美しきものを求めて / 石黒孝次郎

知り合いの方が、私の大学時代の専攻を知り、わざわざくださった本でした。

単行本で、結構分厚くて、自伝というジャンルをあまり読まないものだから、読み終わるかが最初は心配でした。

単行本だから持ち歩く機会が少なくて時間はかかったけど、読み始めるとぐぐっと吸い込まれるように読みました。

実は随分と前には読み終わっていたけれど、なんとなく載せずにきてしまってました。

 

副題は、「あるオリエント古美術商の生涯」。

 

ひとつひとつの古美術品に関する説明ももちろんだけど、古美術商同士のやりとりや、その人の経験談、モノに纏わるエピソードもとても面白かった。

 

戦時中の話、著者はある島で食糧調達のために物々交換をしていたそうで、その中に、ラグビーの優勝杯があったとのこと。著者は大学時代ラグビー部に所属していたため思い入れもあり、それが英国王室からの贈呈品だと気付き、食糧と交換せずにとっておいたそうです。しばらくの後、捕虜として英国軍に捕まったとに、軍人にそのありかを聞かれ、無事に引き渡せたため、大変誉められ、感謝すらされたとのこと。

 

戦後のあるとき、地方の名家で昔のものを整理するからと聞いて尋ねたところ、大きなお皿に出逢ったそうで、それを当時の電車は満員で移動するため、壊してはいけないと厳重に包んでその上に立って持ち帰ったとのこと。その大皿、しばらくの後に購入した価格より遥かに値がついて扱われていたとのこと。取り扱った品がいつのまにか出世していたことを知った時、なんとも感慨深かったそうです。

 

戦前、戦中、戦後と時代を生き抜いた古美術商の自伝など、他にないのではないだろうか。

私は戦後の日本の空気はまるで知らないけれど、焼け野原の東京を見て、ここからどうやって伸びて行くかをすぐに考え行動しようとする人は、その手の中に得られることが多いのではないだろうか。それ以前にも、この人はきっと結構な強運の持ち主なんだろうと思うエピソードがたびたびあった。自然とそういう選択をできる人であり、また、自分の選択を吉に変える力も持ち合わせているのだろうと感じた。

 

それは先見の明であり、落ち込まない前向きな心だろう。

 

古美術に限らず、真贋を、本物を、見極められる人になりたい。

 

それと、いつか、この著者が創設したレストランに行きたい!