長い旅の途上 / 星野道夫
私がとても嬉しかったのは、星野さんの本の中に武満徹さんという作曲家の言葉が出てきたことだった。
父は武満徹さんの本を持っていて、何度か勧められたことがあり、そのうち読もうと思って自分の本棚に移した、ちょうどそのタイミングで、この本の中でその名前を見つけたからだ。
その全てが、私個人のなかでは偶然には思えなかった。
「多くの選択肢があったはずなのに、どうして自分は今ここにいるのか。たった一度の人生を、なぜAではなく、Bの道を歩いているのか。誰しも、そんなことを考えずに日々を生きているのに。ふとした瞬間、その不思議さに想いを馳せることはないだろうか。(中略)
きっと、私たちには、多くの選択などないのかもしれない。それぞれの人間が、行き着くべきところに、ただ行き着くだけである。」
私は、力みすぎることをやめようと、最近よく思う。
努力はしよう。
成長するためのなにかは止めないでおこう。
ただ、自ら自分の首を絞め、ひたすら見えないゴールを目指し、周りの景色を楽しむ余裕もなくがむしゃらに走ることはやめようと思う。
心がなにかから外れたとき、人は探していたなにかと出逢うのだと思う。
「一万数千年という過去は、人間の一生を繰り返してさかのぼるならば、たかだか百代前の私たち祖先の物語である。」
なんと大きな視点でものを語る人だろう。
一万数千年という、よくわからない長さのときを「たかだか」という。
でも、そういうものなのだろう。
大きな大地で氷が溶けるのは、もっと時間がかかるものなのだろう。
一度失われた大地から再び緑の芽が息吹き、あたり一面を埋め尽くすまで、長い時間がかかるように。
「誰もそんなことは心配していなかった。(中略)
大切なことは、出発することだった。」